猛獣たちの夏
- Episode 1 -


一、


 身体に蓄積された不純物を一気に吐き出したような、すっきりした気分だった。
 いや、不純物というのはナンセンスか。本来これは生物が生物たる重要な機能であり、あらゆるオスに備わっている生産物。つまり───

「エル……てめぇ中に出すなってあれほど……っ」
「男の腹ン中に精子が入ったところで卵子と結合するわけでもない、大丈夫だ」
「最初から最後までほんっっっと人の話を聞かねぇ奴だな!」

 つまり、朱雀のケツにぶち込んでいる俺の雄が吐き出した精子。
 神族だが人型は男である朱雀にしてみれば不純物、子種を作る目的じゃない俺にしてみれば欲の塊にすぎない体液。精子というのは相手と状況次第で存在価値が180度変わる。

「ねーねー朱雀。俺まだ出してないんだけどさ」

 お預けを食らった犬のような顔で、向かいの凌が朱雀の葡萄色の髪を引っ張った。

「もっかい咥えて?」
「……あとは自分でやれば?」

 状況を説明すると四つん這いの朱雀の口腔を凌が、ケツを俺が犯したわけだが、俺が中出ししたせいで朱雀がキレて口を離し、凌は至福の絶頂に至らず。断っておくが俺は早漏じゃない。凌が異様に粘り強いのだ。
 膝立ちのまま雄を手に困った表情を浮かべる凌を見上げ、朱雀は畳に突っ伏した。

「ったく……お前らガキは俺を何だと思ってんだよ」
「強姦したいと思ってる」
「あーそうですか。コトはもう済んだよな、じゃ俺帰るから」

 朱雀は自ら腰を引いて俺の雄を抜き、鳥の姿に変身しようと試みて見事に失敗する。
 俺が結界を張っているせいだ。黒魔術を自在に使えるのはこんな時にも便利。
 日本に限らず西洋でも太古から神より魔の方が圧倒的な支配力を持つ。神は何者をも支配しないが、魔は支配が全てだからだ。ゆえにちょっと黒い結界を張っただけで朱雀の神力はほぼ無効化した。

「まだ一発しか抜いてねえのに解放すると思うか?」

 朱雀の細腰を掴んで仰向けに引っくり返し、脚を割り広げる。今さっきまで遠慮なしに突き入れていた穴へ指を挿れると、俺の精子が音を立てて溢れ出てきた。

「いい具合にしてやったんだ、あと二発くらい楽しませろ」
「してくれって頼んだ覚えはねぇよ!」
「こんなエロい身体で誘っといて何言ってるんだ」

 誘った覚えもないと喚く朱雀の、その全身がエロい。
 潤んだ金目、汗に張りついた葡萄色の髪、美味そうに色づいた肌、腰からケツにかけての絶妙なライン。どれを取っても好みだ。誰彼構わず誘惑してケツを振ってそうに見えるが、中身はかなりの純情派。もちろん特別なお相手がいる。その特別なお相手が不在の時じゃないと朱雀はなかなか捕まらない。ここで会ったがハメ時だ。
 暴れる脚を掴んで担ぎ上げようとすると、いつの間に背後へ回ったのか凌が俺の背中にへばり付いてきた。勃ったままの奴の雄が俺のケツに当たる。

「何」
「出したい」
「俺に?」
「朱雀にー」

 交代しろってことらしい。しかしそれでは俺が手持ち無沙汰になる。
 今度は口に突っ込むか、それとも一発分は凌に譲ってやるか。
 穴があったら突き上げたいオスの本能というのは、邪魔が入れば入るだけ欲を増す。

「あ、今エル俺のこと邪魔だって思っただろ」

 肩口から顔を覗かせた凌はその先に視線を移して「朱雀のちんこ発見」と無邪気に笑った。
 この無邪気に朱雀は弱い。
 俺にはとことん抵抗するくせに凌にはあまり文句を言わないのがいい例だ。まあその辺は自分達の嗜好に適っていて、俺は抵抗されてこそ、凌は抵抗される前に口が立つ。
 ようするに朱雀は凌の魔性とも言える無邪気さに騙されているのだが、本人も自覚はあるらしい。それでもつい、となってしまうのは凌の狡猾な甘え方と朱雀の面倒見の良さの相乗効果だろう。

「否定はしない。でも朱雀を捕まえたのはお前だもんな、いいよ譲ってやる」
「手柄を立てた相手にずいぶん不遜な態度だな、おい」

 餌食にされている状況を棚上げに朱雀が横槍を入れた。凌に騙されてこの空き屋へ引きずり込まれた事については怒らない。

「てことで朱雀、挿れていい? すぐ出るからさ」
「すぐ出るとかそういう問題じゃねぇだろ……痛いんだよ」
「エルの精液で滑るし、俺そんなデッカイちんこじゃないし。でもダメ?」
「もーいい、分かった。さっさと終わらせて解放してくれ」

 という風に相乗効果が生まれる。
 凌の二面性を知っていながらこの折れ方はさすが年上とでも言っておこう。神に年齢はないが、人間でいうなら朱雀は二十四、五だ。
 子供みたいな笑顔で立派な雄を突っ込んだ凌は、予想するまでもなく三十分は粘る。
 自分の服を手繰り寄せて懐中時計を見ると、仕事まであと二十分もなかった。
 一発では不発も同然。せめて二発は絞りきりたい。
 朱雀の口に突っ込もうと考えたが、凌がチューチュー吸ってて空いてない。

「凌、お楽しみのとこ邪魔するぞ」
「ん?何……って、ちょっとちょっと。俺なんも滑るもん付いてませんよ」
「唾液でいいだろ」

 凌のケツをひと舐めしてそこにぶっ刺した。朱雀がぎょっとして凌の肩越しに俺を見る。

「振動がそっちまでいったら悪ィなぁ」

 ニタリと笑って見せた俺に朱雀は蒼白、凌は悦楽の表情で応戦体勢に入った。




「すーざーくー。気がついた?」

 はたと目を覚ますと、凌が視界いっぱいに覗き込んできた。

「大丈夫? お医者さん呼ぶ?」
「医者……あのヤリチンはどうしたんだよ」
「エルなら仕事でお城に帰っちゃった。だから急いでたんだよ」

 どこの世界に急いで強姦する奴がいるんだ。

「医者の卵のくせに人の身体に無理強いしやがって……」
「ごめんね朱雀。俺が踏ん張ればよかったんだけど、あいつガッツンガッツンやるから」

 まるで凌を使って俺を犯したような力技。
 直に挿れられていた凌はたまったもんじゃないだろう。なのにケロッとしている。

「あのさ、怒ってる?」
「すっげー怒ってる」
「……ごめんなさい」

 そこでションボリするのも策略だと分かっているのだが、基本的に凌は素直だ。
 天真爛漫で好奇心旺盛。良くも悪くも子供そのもの。
 やっちゃいけないと思いつつ、ついその頭を撫でてしまった。凌がぱっと顔を上げて抱きついてくる。エルに凌と同等の可愛げがあればまだ───
 なんて、最後はいつも暴れん坊のガキ二人を嫌いになれない自分に心底呆れた。






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